タカサキきんこんかん

タカサキのキンコンカンの日々

出発まであと十日あまり

「出て行け!」

といきなり怒鳴り声が飛んできた。今日は調子悪いなと思う。何言っても収まりそうにないので、要求どおり家を出て、今、喫茶店でこれを書いている。

 娘は精神を病んでいる。パーソナリティ障害、うつ、軽度発達障害。大学の時うつを発症して全く学校へ行けなくなった。その後、パーソナリティ障害の診断が出て、だんだん状態が悪くなっている。

 自分で感情がコントロールできない。優しい気持ちになろうと思っていても、正反対の言葉が飛び出して、まわりとの関係がぐしゃぐしゃになってしまうと泣きながら語ったことがある。

 病院に行っても自分の症状をうまく説明できない、買い物もうまくできない、もう生きていけない!とさめざめと泣いてしまうこともある。

 説明なんかできなくったっていいじゃん、困ったときは誰かに助けを求めればいい、そうやって生きている人はいっぱいいる。なんていっても、何の慰めにもならない。それでも、それを言い続けるしかない。

 苦労は人生を鍛える。生きることに厚みが出る。それは娘の症状がひどくなり、毎晩のように格闘し、思うことだ。いつか娘もそのことに気づいてくれれば、と思う。今の苦労は、人生に厚みをつけてくれているんだ、と。なんの苦労もない人生なんて、平板で、おもしろくもなんともない。

 

 半月ほど前から突然北海道のデザイン学校に行きたいといいだした。調子の悪い日が続いているので、そんなの「無理!」といっているのだが、収まらないので、うつを発症して以来お世話になっている三宅先生に相談に行こう、と提案。今の症状がわかれば三宅先生も、やめた方がいい、というに違いないと期待したのだった。

 案の定、受診した際、娘の状態を聞いて、ちょっと入院して休息した方がいい、とアドバイスしてくれたのだが、娘は「いや!」の一点張り。「じゃ、何がしたいの?」「デザイン学校に行きたい」と、おもむろに鞄から学校のパンフレットを出し、三宅先生に見せる。ちょうど8月22日に見学日が設定されていて、それに行きたい、と娘。「そうか、わかった、じゃ、行ってきたら」と先生。私に小声で「何もかも否定していたら前に進まないので、とりあえず行くだけ行ってみたら」

 上機嫌になった娘、いろいろ相談に乗ってもらっている生活支援センターのキノシタさんにも会いたいという。そのキノシタさん、「素晴らしい!こんなに自分のやりたいことを明確に言ったのは初めて。ぜひ行きなさい。応援するよ」

 と、予定が全くひっくり返ってしまった。

 ところがその夜からまた調子が悪くなり、旅行どころではない。飛行機の中で大暴れして、緊急着陸とかなったら、損害賠償で家が潰れてしまう。今まで二度ほど大暴れして警察を呼ぶ事態になったことがある。

 で、また三宅先生に相談。本人は調子悪くて受診できず、両親だけで相談。安定剤を朝と夕方飲んで、安定した一日を作る。薬はうまく利用して、いい一日を作るために使うようにすればいい。飛行機に乗る前にもきちんと薬を飲む習慣をつけておくといい…と、説得され、もう行くしかない。その日の夜に飛行機のチケット、ホテルを予約。

 

 母親だけだと心配なので、私もいっしょに行こうかと思っていたのだが、私がついて行くと余計に荒れるので、これは断念。

 出発まであと十日あまり。大きな大きな試練になりそう。

 

 2年前、入院した際に描いた絵。親しくしていた人が退院するときに描いたらしい。

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